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最高裁判所第二小法廷 平成5年(行ツ)27号 判決 1993年4月09日

千葉県佐倉市新町五〇番地一

上告人

小澤功子

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被上告人

国税不服審判所長 杉山伸顕

右指定代理人

加藤正一

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行コ)第一九号裁決取消請求事件について、同裁判所が平成四年七月二六日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告人の上告理由について

原判決に所論の違法はなく、論旨は、違憲をいう点を含め、独自の見解に立って原判決の法令違背をいうものにすぎず、採用することができない。

よって行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中島敏二郎 裁判官 藤島昭 裁判官 木崎良平 裁判官 大西勝也)

(平成五年(行ツ)第二七号 上告人 小澤功子)

上告人の上告理由

第一、充当処分の処分性について

一、原判決の理由とそれに対する反論

1.原判決は、本件充当は国税通則法七五条一項二号の国税に関する処分には当たらないと判断している。しかし、被上告人は処分性を認めており、上告人も適法に不服申立てをして提訴したものであるから二審の判断は失当である。

(一) 最高裁昭和六三年二月一九日第二小法廷判決(税務事例二〇巻五号一六頁)は、国税通則法五七条に基づく充当処分の適否が争われた事案に関し、右充当処分は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるとしているから、本件国税還付金を本件滞納国税に充当した処分は、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法三条二項)に当たるので、原判決が、本件充当は国税通則法七五条一項二号の国税に関する処分には当たらないと判断するのは、右最高裁判例に違反するものである。

2.原判決は、東京国税局長が充当した還付金は、昭和六三年度所得税の更正処分により納付されたものであったが、再更正処分により減少された税額でそれは国税通則法五六条にいう過誤納金のうちの過納金に該当するものである。と述べているが、【当該還付金は、成田税務署長が昭和六三年度所得税の更正処分により同六二年度同税の還付金を同六三年度更正処分による税額に充当したものであって、異議申立てに対する異議決定で一部取消しをしたことによって発生した金額である。】(原判決は再更正処分により一部取り消された。と記載。)

(一) 原判決は、還付金を過納金と誤納金にわけているが、わけること自体無意味である。

(二) 国税通則法五六条一項は還付金を過誤納金として処理しているし、還付金が過納金、又は誤納金であるを問わず処分性があるものとしていることからしても、不服申立てができる処分であるということが重要であって、誤納金に対しては還付金返還請求訴訟を提起しないですむし、過納金に対しては更正処分の取消しを得た上で還付金請求をする場合もあるが(原判決記載)、更正処分の取消しをしないでも還付金請求できる(前述【 】部分)場合もある。

3.原判決は、「違法不当な充当の効力を争うためには、基礎となっている課税処分等の正当性を吟味する必要があり、かつ、これをもって足りるのであり、それ以外に、充当自体に処分性を認めてこれを検討の対象とする必要性はないものということができる。と述べているが、右2.記載のとおり当該還付金の充当は、課税処分の正当性を吟味することも必要であるが、一方、課税処分の正当性を抜きにして充当自体に処分性を認められるものであるから、原判決の主張は失当である。

4.原判決は、充当自体の当否を争うことができる場合(未納国税が全くない場合、つまり誤納金と同じ)には充当を処分と解することが相当でないと述べているが、2.3.記載のとおり充当自体の当否を争うことができる場合にあたるから、原判旨は失当である。

5.原判決は、充当の性質が処分ではない以上、充当そのものについての審査請求を認めることはできない(例えば、更正処分をするまでもなく、未納の国税債権が全くないのに誤った充当がされたときは、課税処分等に対する不服申立てについての期間の制限にかかわらず、還付金の請求をすることができると考えられるので、以上のように解しても納税者に不利益はない。)と述べているが、未納の国税債権があるかないかは課税処分の適否と同じように審理をしてみなければすぐにわかるものではないから右の見解は失当である。

6.原判決は、「充当に対する異議申立てないしその決定に対する審査請求は、充当の基礎となっている課税処分を争う趣旨のものとして解しうるときはその限度において適法であるが、充当そのものを対象とするときは不適法であることになる。」と述べているが、成田税務署長は昭和六二年分の所得税の還付金を同六三年分の更正処分による所得税額に充当し、一部取消しをして東京国税局長が還付金を充当したものであって課税処分の違法とは別に還付金の充当処分自体の違法があるから、原判旨は失当である。

(一) 昭和六二年分所得税の還付金は、国税通則法五六条一項により遅滞なく金銭で還付されなければならないのに、平成元年七月四日付でされた昭和六三年分更正処分により当該還付金が充当され、異議決定により一部取消しされ、その取消しされた還付金が充当された。

(二) 国税通則法五七条一項により東京国税局長は充当処分をしたが、(一)の違法事由により当該還付金の充当処分は違法である。

(三) 因って、本件充当に対しては、充当に処分性があることは明らかであるから、「充当に処分性がない以上、充当そのものを対象としてその取消しを求める行政訴訟を提起することは許されないというべきである。」と言う判旨は失当である。

第一、本件裁決の固有の瑕疵(訴えの利益)について

一、原判決の理由とそれに対する反論

1.原判決は、「国税通則法九三条一項は国税不服審判所長に対し、一定の期間(通則法では相当の期間と記載されている)を定めて原処分庁に答弁書を提出させるべき旨規定しているが、仮に指定された期間内に答弁書が提出されなかったとしても、その一事によって当然に裁決が違法性を帯びるものと考えることは到底できない。したがって、本件審査請求に理由がないことは、………。」と述べているが、七ヶ月近くもの間答弁書を提出しないことは同法九三条一項の「相当の期間」を定めて原処分庁(東京国税局長)に答弁書を提出させるべき旨に違反していることは明らかであるから、原判旨は失当である。

2.原判決は、「控訴人が本件において本件裁決固有の瑕疵として主張するのは、原処分庁である東京国税局長が、被控訴人が指定した期間を超えて七ヶ月の間答弁書を提出しなかったという点だけである。」と述べているが、「審査請求に対する原処分庁の答弁書は平成二年十一月十九日付で出されたが長期間(七ヶ月近く)答弁書が提出されていないのでこの理由により原処分は無効であるという原告の反論に対しての被告の裁決書ではそれに対する判断を示してはない。因って、審理不尽の棄却は違法である。」というのが本件訴状の記載事項である。

(一) 七ヶ月の間答弁書が提出されていないから、それを理由として原処分は無効であるという原告の反論に対して被告は裁決書ではそれに対する判断を示してはいない。審理不尽の棄却の裁決は、国税通則法九三条二項の「答弁書には、審査請求の趣旨及び理由に対応して、原処分庁の主張を記載しなければならない。」に違反しているから(上告人は反論書で述べているが、右通則法の趣旨からしても適法である。)裁決固有の瑕疵にあたることは明らかなのに、原判決が「審理不尽」を審理せずに裁決固有の瑕疵ではないと判旨するのは失当である。

3.(一)により上告人には訴えの利益がある。

4.原判決は、本訴請求が理由のないことは明白であると述べているが、第二で上告人が主張したとおり本件請求には訴えの利益があり、本件請求にも理由があるから、原判旨は失当である。

第三、総括

一、第一の上告理由及び絶対的上告理由

1.第一、1は、民法一条二項に違反し、憲法三二条及び同法八四条に規定されている権利を侵害されることになるから、民事訴訟法三九四条の上告理由にあたる。

2.第一、2.ないし6は民事訴訟法三九五条一項六号の絶対的上告理由にあたる。(判決に理由を附してはいるが、理由に齟齬がある。)

二、第二は民事訴訟法三九四条の上告理由並びに同法三九四条の上告理由並びに同法三九五条一項六号の絶対的上告理由にあたる。

第四、因って、第三、一及び二を適用して原判決を破棄し、さらに相当の裁判を求める。

以上

(添付書類省略)

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